北浦発たなご通信8〔あすか釣狂人〕
秋の陽が人肌のぬくもりだけになるころ、めっきり少なくなったトンボが弱々しい羽ばた
きでホバ-リングしているのが机の窓越しに見える。
ふと、感傷的な想いに暫し仕事の手を休め無為なひと時を過ごすことがあるが、こんな心
理の深層は歳を重ねてこないと解からないのかもしれない・・・・五年後十年後には、い
ったいどんな心境でこんな風景を眺めるのだろうと思うと愉みでもあり、また恐ろしくも
なる。
あきとんぼ 陽ざしよ熱くと 目に泪
櫓 棲
さて、のっけから脇道にだいぶ逸れてしまったようだが、ところがドッコイ・・・煩悩
の権化のような釣狂人、ちゃぁんと釣りの話しにしますからご安心を。
たなご釣りの釣伎のひとつに「とんぼ釣り」というのがある・・・
元来は脈釣りのひとつで、主に流れのある場所で重めのオモリを付け目印を用いてアタリ
を取る釣り方だが、最近はとみに「とんぼ釣り」をする人が少なくなってしまった。
関東では、とんぼ釣りに適した場所が少なくなったということが直接的な原因であろうが、
とんぼ釣りの人気が無くなるにつれ、肝心のオモリとかトンボ仕掛けが入手困難になって
しまい、その凋落傾向に拍車をかけてしまっている。
はたして、とんぼ釣りは釣る場所も限定され、釣伎としても魅力に乏しいものなのであろ
うか・・・? わたしとしては、否と断言したい。
とんぼ釣りの由来は、道糸に対して平行に3〜4個つける目印をトンボの羽に見立てたもの
と解釈しているが、この目印をトンボの羽にイメ-ジした古え人の風流さが何ともこころ憎
く、その素養に憧れるばかりです。
トンボの素材としては、セルロイド・鳥の羽・釣り糸などを用いるのが一般的で、オモリ
は両環錘や東式錘を使用していました。アタリの傾向としては、トンボが回転したり横に
フワーと振れたりツンが主ですが、脈竿を用いた釣りでは穂先に感じるアタリでも結構、釣
れるものです。
しかし、このトンボ仕掛けを水の流れのないで使用した場合、浮子シモリ仕掛けと比べる
と感度の面であきらかに差があります。その感度の差の最大の原因は、浮子シモリに比べ
てあまりにも思い錘の差であると考えています。流れのある場所でトンボ釣りをした場合、
竿先に感じるアタリでも釣れる確率はかなり高いのですが、止水域で竿先に感じるアタリ
で合わせても、ほとんど乗りません。ということは、竿先で感じるアタリでは遅いという
ことで、それ以前に表われてるトンボの変化を見逃していることになるのです。
現実に同じ状況下で、活性の低い時期に浮子シモリとトンボとでアタリの出方を比較する
と断然、浮子シモリに分があるように感じています。しかし、この一点だけで仕掛けの優
劣をつけていいのでしょうか・・・トンボには、浮子シモリより優れた性能を有する点が
ある・・・そう実感しているたなご師のかたが私以外にもいらっしゃるのではと思ったり
もしています。
それではトンボならではの味わいというか、楽しみのようなものを列挙してみましょう。
・鈎先から腕までが一つの線上にあるような一体感が生み出す緊張感のある釣り。
・落ち込みのアタリが取り易い。
・さそいの角度や距離が、意のままになる。
・トンボが回ったアタリで合わせる快感。
しかし、これらの楽しみも肝心のアタリが出にくくては、トンボ釣り自体が魅力の薄いも
のになってしまいます。特に冬のタナゴ釣りの主なフィ-ルドが止水域になった昨今では、
止水域でもアタリが出やすい仕掛けが絶対条件になってくる。
いま、私が主に使っているトンボ仕掛けは従来のトンボ仕掛けに比べると、その錘ははる
かに軽く、しかも僅かなアタリにも反応し易い工夫がなされています。止水域の釣りでも、
浮子シモリと遜色がないぐらい感度はあるのですが、反面トンボが回転するアタリが少な
くなったような気がしています。
これからの課題としては、トンボが回転するアタリを多く出すことですが、これも最新の
トンボ仕掛けを使った試釣ではかなり改良され、そう遠くない時期に紹介できるものと思
っています。
ほぼ完成の域にある浮子シモリと違い、トンボ釣りは改良の余地がまだまだあります。
ベテランの方の経験と、若いタナゴ師たちの自由な発想がトンボ釣りをより楽しいものに
してくれるものと信じて疑いません。
いつの日か、季節はづれの「とんぼ釣り」で皆さんとご一緒できたら・・・などと、極楽
トンボは夢みています。
2005,11,吉日
江戸釣趣 あすか 亭主